宮原晃一郎
底本:「日本児童文学大系 第一一巻」ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日初刷発行
底本の親本:「悪魔の尾」講談社
1927(昭和2)年2月
初出:「赤い鳥」赤い鳥社
1924(大正13)年8月
入力:tatsuki
校正:鈴木厚司
宮原晃一郎
けれどもこの湖からは、一筋の大きな河が流れて丁度(ちやうど)悪魔の市(まち)の真ん中をとほるものですから、いつかしら悪魔たちは右の岸、左の岸と二派に分れましたので、とう/\喧嘩を始めました。すると両方へどこからともなく他の悪魔が来て、加勢するものですから、その喧嘩が愈々(いよいよ)大きくなり、遂(つひ)に戦争になつてしまひました。
それからといふものは、夜昼の区別なく、春夏秋冬、年がら年中、のべつ幕なしの大戦争で、お互に敵に打勝つ手段を考へては、その魔法をつかつて戦ひました。
腹の黒い悪魔の吐く息は、雲か霞(かすみ)のやうに空を立(たて)こめて、まだ生れてから若い、お天道様の美しい光りも覆ひ隠し、地上はまだ世界がひらけない前のやうに真暗(まつくら)になりました。おまけに唸(うな)り合ひ、啀(いが)み合ふ声は、山々谷々をゆり動かし、足踏み鳴らすその響は地震と雷とを一緒くたにしたやうで、その恐ろしさといつたらありません。